そう、それは辛いね。歯の根っこの太さは1ミリ以下の太さしかないから、とても精密な治療になる。だらか、専門的な「知識」と「経験」が必要なんだ。
1ミリ?!そんな「極細」の話なんですね。
当院では再治療のリスクが低くなる「自費」での治療が出来ます。当院の根っこの治療のエキスパート、臼井先生を紹介します。臼井先生は、説明がとても上手なんですよ。
自分の歯の根っこって、自分の体の一部なのに自分では見られない・・・全然分からないので是非教えてください!
歯科医師 臼井祐大(うすいゆうた)インタビュー
目次
「超精密」歯の根の治療は14万円の内容は?
「失敗が8割」
自分の歯だといいところは?
【道具が分かれば怖くない!】根っこの治療専門家の道具について
その1 ラバーダム
その2 ミラー(口が開きづらい人用もあります)
その3 ニッケルチタン(NiTi)ファイル
その4 説明用タブレット
その5 マイクロスコープ
患者さんにひとこと
取材後記
- 自費の歯の根の治療が「14万円」とのことなのですが、内容は?
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「虫歯の治療/根管治療(こんかんちりょう)/根管充填(こんかんじゅうてん)/土台を立てるところ」です。
- 治療期間、回数は?
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根っこの治療は、「初回の治療」と「再治療」と分けられます。初回の治療の時間の目安はトータルで、3時間です。再治療は、4時間です。根っこの治療を保険治療でやると、麻酔して、麻酔が効くのを待って、仮の蓋を開けて、ラバーダム(下記画像参照)という器具を使う・・・根っこの治療のスタートまで「15分」掛かっているんですよ。
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ということは、一般的な保険治療の枠「30分」で根管治療をやると、実際に根に触れるのは2~3分です。
- 「30分」の治療枠で、実際の根の治療はたった「2~3分」・・・。
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ラバーダムを省けば治療時間が長くなりますが、それだと根っこの治療の意味がない。
「根っこが虫歯菌に感染して、虫歯菌がたくさん増えたことによって起きている」から根の治療をするのです。
「菌を減らすための治療」なので、「無菌的状況(むきんてきじょうきょう)」が必須、でもラバー(ダム)がなければ、その意味がない・・・口の中の唾液には、菌がいっぱいいます。
根っこの中をキレイにしているはずなのに、唾液がいつ入るか分からない状況で治療する=次の治療までの間に唾液の中の菌を培養しているようなもので、何の意味もない。
でも、それを達成するために保険でラバーをやると、2分しか(歯の根っこに)触れない。
根っこの治療で本当は「3時間」触りたいのに、実際は「2分」なので、これでは一体治療に何回通うんですか?という話になります。
ラバーと麻酔で無菌的状況を作りたいけど、忙しければ1分しか触れないかもしれない・・・そうなるとハッキリ言って「根っこの治療は保険では出来ない」といえます。 - 保険じゃできない?!
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現にデータとして、日本の保険治療で失敗率(5年以内で感染している状況)が8割です。
- 失敗が8割?!
- 失敗、つまり再発率が8割です。ただ、再発しても「歯が痛い」と苦しまない・・歯がボロボロでも神経を取っているから痛くならないんです。
痛い/痛くない基準で考えると問題ないけど、歯がボロボロの人が健康的か?といわれたら違います。 - 痛くないけど、ボロボロ・・・ということですね?
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痛くなくても、虫歯になっています。失敗率をどう評価するのかというと、何年後かにレントゲンを診て、成功か失敗かを評価します。
レントゲン的には8割くらい失敗している。
それが大前提で「根っこの治療は、保険じゃできない」となるわけです。
でも、国としてはやってほしい・・・正直、国の保険治療の根っこの治療は「痛くないようにしてあげて」という治療です。
痛くなくなったら終わっていいよ、という治療です。 - 保険=痛くなくする治療、ですね?
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そうです、最低限の治療です。歯がなくなったら入れ歯を入れて機能的な生活を維持できる、そこに「固いものを食べたい」とか「快適な生活をしたい」というのは、あまり含まれていない制度です。
だんだん保険のルールも「管理型(治療)」から「予防管理型」に変わってきています。
「予防をして治療にならないようにしてね。治療後の予後(よご:治療後の経過)はあまり保証出来ないから。とにかく、虫歯と歯周病にならないでください。」にシフトしたのです。
根っこの治療は、その前に神経を取らなきゃならない。
神経を取らなくていいためには、虫歯にならないようにすればいい。
そのため、虫歯の治療は、僕がやると90分掛かります。 - 虫歯の治療が90分?!
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虫歯の治療も、ちゃんと「ラバーダム」します。
- 虫歯の治療もラバーダム?!
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もちろん、唾液が入っちゃうので。実は、虫歯の治療もちゃんと90分かけてやれば、その後神経を取らなくて済むし、神経を取らなければ根っこの治療にならなくて済むし、根っこの治療にならなければ歯を抜かなくても済みます。
- いいループですね。
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「抜かなきゃいけない」と言われた時点でかなり、「やったから必ず治るという状況じゃなくなっている」んです。
再治療の時点でチャレンジになっている・・・「保険じゃ絶対治らないから一番いい方法でチャレンジしましょうか」というのが自費の根っこの「再治療」です。
自費の根の治療に14万円という価格があって、それにプラスしてかぶせ物だと、30~35万円になります。
この歯を、それだけ残す価値があるかどうか?
患者さんに「抜歯してインプラントで40万円」か「根の治療をして自分の歯を残して30~35万円」、どっちがいいですかという選択をしてもらいます。
- 自分の歯だといいところは、どんなポイントですか?
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自分の歯だと「歯根膜(しこんまく)」があるので感受性が高い。
- 感受性ってなんですか?
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噛んだ感覚、例えば砂を噛んだ時にうわって思うじゃないですか?インプラントは、それがないんです。
- 卵の殻を噛んだ時にガリっとなる感じ、ですか?
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そうです。なので、痛くないので無限に噛み続けられます。
- ちなみに、自費の根の治療は1日で終わるという認識であっていますか?
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再治療は全部で4時間なので、4時間口を開けていられる人は1日で終わります。が、実際は難しいので、90分枠を取れば実際の治療の時間は60分なので、4回。根っこの曲がり具合によって、難易度が高い方だと、もしかしたら5回です。
- 虫歯もラバーダムするとのことでしたが(写真を見せてもらって)・・・大した虫歯じゃないですよね?
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大した虫歯じゃないところから(ラバーダム)を始めるのが、大事です。自費の治療の歯のかぶせ物のこの段階からやることが、歯には本当に大事です。
- 常に「付け焼刃」なんですね、保険の治療は。
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そうです。
歯医者の治療は「モノ」を売っている訳じゃない・・・「白いから高い」ではないんです。
誰がやっても治療は一緒、ではありません。
歯を残したい人、その価値が分かる人がこの治療を選択しますね。 - 「治療の技術」に対しての対価をちゃんと考えてくれる人、自分の歯に価値を感じる人に対して治療をする、ということですね?
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そうです。しっかりちっちゃい虫歯の段階の時から、ちゃんと治療することですね。
- 虫歯でラバーダムって、初めて聞きました。
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菌がいっぱいいる状況で埋めちゃうということは、何十年もかけて菌を培養しているということです。
最初に言ったように「症状」と「歯の状況」は、イコールではない。
「痛くなる」ということは、もう神経まで行っちゃっているということです。 - 二次カリエス(虫歯の再発、業界用語で「ニジカリ」、カリエスは虫歯の意)に、ならない訳がない。
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そうです、ラバーをしないとそうなります。
自費で根っこの治療を希望する人は、「ラバーをしていないので不安になった」「治療時間が短くて不安になった」「説明がない」「今、している治療が、なんかおかしい」と思って自分で調べてくる人が多いです。 - 根の治療をすることになった時点で、医院さんを変えていいんですか?
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ああ(気づいたように)全然いいです、変えづらい雰囲気ではあると思いますが。
- (実際に目の前でラバーダムの手技を見て)口の中だと分からないけど、これは分かりやすい。長い時間、口を開けているの、大変ですね。
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でもみんな寝ています。
1~2回目は緊張されていますが、3回目くらいから治療時間が長いので「音楽などの暇つぶし道具持って来て下さい」とお願いします。(笑)
やってもらうと分かるんですけど、すごく楽です。
ベロが来ない、頬っぺたが来ないじゃないですか。 - 術者だけじゃなくて、患者さんも楽?
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はい、患者さんも楽です。
- 自分自身で、ベロの位置を気にしなくていい、口だけ開けていればいいんですね。
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口も「バイトブロック」という口を開けたままにしておく器具があります。
- 完全なる「まな板の上のコイ」ですね。
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そうです、寝ていていいんです。
超貴重!実録!ラバーダムのラバー掛けているところ!!
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普通のミラーと違って、表面の反射が全然違うんです。
- え?どういうことですか?
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普通のミラーは、光が反射したり、二重になって像が見えるし、暗い。
対して、根っこの治療用ミラーは反射もしなければ、像もぼやけないですし、とにかく明るい。
普通のやつは100円なんですけれど、これ1個600円です。 - なるほど。根の治療は道具が「そもそも」違うんですね。
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はい、道具が「そもそも」違います。
ちなみに、根管治療代は保険でやると、1本600円です。
ちなみに、このミラーは傷つきやすく、どんなに丁寧に使っても、半年しか持たない。
滅菌の段階で傷付いちゃうので、頻繁にやると1か月でお釈迦です。
1本じゃ出来ないので、だいたい20本とか用意して・・・。 - 1回の治療に20本のミラー!?
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はい。そしてこれが、口の開きづらい人用の小さなミラーです。
- 口が開きづらい人用の小さいミラーまであるんですね。「知らないことは怖いこと」なので、まず道具から教えてもらうだけでも安心しますね。
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ファイルは、根っこをキレイにする道具ですね。
- これは保険では使えないのでしょうか?
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保険でも使えますよ。
- 歯の根って、本当に細いんですね。
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細いです。これは太いやつです、あまり曲がらないです。
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「ニッケルチタン」と「ステンレス」があります。
細かい話ですが「根っこの治療=中の菌をなくす治療」です。
何をしているかというと・・・ここに感染がある。(続く)
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ここに菌がいる。
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感染が起こると身体としては何をしたくないか?というと、血管があるので、血管に菌を送らないようにします。死んじゃうから。
- 敗血症、というやつですか?
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そうです。なので、どうするかというと、根っこをとにかく細くするんです。
- ・・・人の身体ってすごいんですね。
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人ってすごいんです。だから、このままの状態だと、道具が届かない。
だから、根っこの治療は詰まるところ何をするかというと「この道をしっかりと広げて、薬が奥まで届くようにする」のが「根っこの治療」です。 - そうなんですね!
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薬で何とかするのもそうですが、適切に広げてあげて・・・この状態が「0.05ミリメートル」。
- 0.05ミリ?!
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これだとキレイにならないんです。薬が届くようにするには、「0.35ミリ」必要なので、7倍広げてあげる。
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どうして失敗が起きるかというと、根っこはこんなにまっすぐじゃないです。人の歯って、こう曲がっているので、これに硬いさっきのやつ(ファイル)を入れたらどうなるかというと、脇道のキレイになっていないところがあるから感染する。
- 完全に取り残しているんですね。
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でもこれは仕方ないです。柔らかいファイルが使えない、時間的な余裕がないと、「ファイル破折(はせつ)」といってファイルが折れることがあるのですが、ハッキリいって仕方ないです。焦って、こういう道にもかかわらず突っ込んでいく。
- 折れたらどうなるんですか?
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取ることもできますし、ファイル自体が無菌だったら、折れても無菌なので置いておいてもいい。
取ることの方がリスクの高いときは、取らない。
そういう治療なので、まず柔らかいファイルを使わないとまっすぐな道になっちゃいます。
だいたい「再根管治療」はこのパターンで、悪くなっている。どんなに拡大してみても、見えるのはまっすぐなところだけ。
なので、本来の根っこを探して、キレイにしなきゃならない。だから難易度が高くなります。
- ムッチャ精密なことをやっているんですね。
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絵で描くとムッチャ簡単なんですが、根っこの方向は「360度」なんですよ。(2つ上の写真、右上参照)もしかしたら手前かもしれないし、向こう側かもしれない。
- これは保険じゃ無理ですね・・・。
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だから絶対に「マイクロ」(下記写真で先生がのぞいている「マイクロスコープ」)が必要なんです。
マイクロが保険で使えるかというと、一部分でしか使えない。
根っこがまっすぐな人はそんなにトラブルが起きないけど、曲がっている人は難易度が高いので保険では無理ですし、根っこの治療をしっかりやっている先生でないと、クリアできない問題です。
最初言ったように、歯の「症状」と「状態」は違います。
痛みが取れますが、「状態」は良くないままです。 - 歯の根の「再治療」は相当難しい?
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相当難しいです。
- ・・・これは皆知った方がいいですね。先生はいつもタブレットを使って説明するんですか?
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します、します。
患者さんによって原因が違うので、絵で描きながら説明します。
これが道を広げて、その後に菌を殺すために薬を攪拌(かくはん)するものです。
これでグルグルと回します。 - これ、何ていうんですか?
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「XP」です。動画があります。
- 先生の中で大事と思っているのがXP?
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洗浄、無菌化を達成するためのXPです。楕円構造(だえんこうぞう)でグルグル回っていくんですよ。
- 先生は、何で根っこの治療をガッツリやろうと思ったんですか?
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僕、歯の治療をむちゃくちゃ受けているので、根管治療がすごく辛いことを知っています。
「何でこんなに辛いんだろう?」と思ったら、「保険でやっているからだ」と気付いたんです。次は、カリエス(虫歯)で神経を取らないようにするのが目標です。
- 悩んでいる患者さんに一言!
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自分の歯の状況を理解してほしいです。
何でそれが起きているのかを理解してもらって、そのうえで選択肢を並べて考えてほしいです。 - 自分の歯に向き合って、ということですか?
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歯医者というのは、モノを売るところではない。
海外では、医学部を卒業してその中のエリートが「歯医者」になります。
自分の歯を理解した上で、自分の「最適解」を見つけてほしいです。 - 歯医者が思う「最適解」は?
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矯正をして歯並びを良くして、プラークコントロールする。
歯が悪くならないルールがある、それを達成するのが「最適解」。 - 患者さんも、自分の中で「最適解」を導ける知識を持つ必要がありますね。
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ちゃんと、向き合ってほしいなと思います。
1回につき60分、1本の歯の中の神経の治療をしてもらったら、それはさぞかしよくなるだろうなと容易に想像が出来ます。
逆に1~2分で終わる治療を何回も繰り返していては、治るものも治らないということも容易に想像が出来ます。
そして、歯の根っこがバイキンを血管に入れないために自ら細くなっていくという技(?!)を持っているなんて、人の体はやはりミラクルだと改めて感じました。
自分の体よ、ありがとう!(笑)
そんなミラクルな体を最大限に生かすためには、最大限の注意(=予防)を払って活用しなきゃもったいないです。
以前、理事長先生が「治療はしたくないんです」とお話していました。
根っこの治療をしたことで自分の歯と向き合う機会になり、その後同じことを繰り返さないための意味ある選択肢と感じました。
インタビュー:2024/9/18
先生、知り合いが歯の根っこの治療をしていて「歯を抜かないといけない」と言われたけど、抜きたくないって・・・。どうしたらいいんでしょうか?