侮るなかれ、唾液の力!
2022年01月20日
執筆者:日本抗加齢医学会専門医 上村英之
本日は唾液の力について解説いたします。たかが唾液と思うなかれ、唾液はただの水ではありません。様々な身体にとって不可欠で有益な成分であることを理解しなければなりません。極端な話をすると死期の近づいた人は唾液が出ず口がカラカラに乾燥していますが生命力あふれる赤ちゃんはよだれをたくさん出します。
成人でどれくらい唾液が出るかと言うと1日に 1〜1.5 リットル出ていると言われています。これは安静時と刺激時、交感神経優位な時と副交感神経優位な時でも違いますし睡眠中はほとんど分泌されないなど様々な生活の中のシチュエーションによっても出方は変わります。
さっそくですが唾液の力について考えてみましょう。
①自浄作用
唾液は、お口の中の汚れを洗い流す作用があり虫歯や歯周病、口臭を予防する役割を果たします。
② 食塊(しょくかい)を形成し嚥下(飲み込むこと)しやすくする
パンやスナック菓子などのパサパサしているものをそのまま飲み込んだら飲み込みづらいですよね。
これを防ぐために、噛んで唾液を出し唾液の中のムチンという成分を利用し、食べ物を泥団子のような塊(食塊)にして、飲み込みやすくしています。
③ 消化を助ける
アミラーゼという消化酵素が炭水化物を分解して、消化を助けます。
④ 味覚を感じる
唾液がなければ、味を感じることはできません。 味覚には、味わいを楽しむだけでなく、その食べ物が安全なのかを一瞬で判断する大切な役割もあり極端にすっぱいもの、苦いものあるいは腐ったもとや毒物などを反射的に吐き出すのに役立ちます。
⑤ 免疫力を保つ
唾液(だ液)に含まれるリゾチームは、抗菌作用を持った「酵素」で色々な細菌感染から生体を守り、生命維持に欠かせないものなのです。またラクトフェリン、ペルオキシターゼ、IgAなどの殺菌物質も含まれています。
また、唾液に含まれる ムチンは、菌を凝集させ、「菌塊」として口の内から排出するはたらきをしています。
⑥ 再石灰化作用による虫歯予防
歯のミネラル成分であるカルシウムやリンが酸によって溶け出す脱灰を起こした時、脱灰しかけたミネラル成分をまたもとに戻し修復する再石灰化作用により虫歯予防の効果があります。
⑦ お口の中のPHを整える緩衝作用で虫歯予防
口腔内は通常PH6.8~7.0で中性を保っていますがお口の中に糖分が入るとPHは一気に酸性に傾きpH5.5以下になると酸の力により歯のミネラル成分が溶け出し虫歯になってしまいます。この酸性に傾いたPHを中性、アルカリ性に戻す機能のことをPHの緩衝作用といいます。この作用によって歯は虫歯から守られているのです。
⑧アンチエイジング効果
若返りホルモンといわれるパロチンは成⻑ホルモンの一種で、体を若々しく保つ機能・骨や歯の再石灰化・新陳代謝を促すなどのアンチエイジング効果があります。
⑨殺菌消毒効果
NGF(nerve growth factor)、EGF(epidermal growth factor)といった神経や上皮を修復、成長させる因子が唾液中にあります。たとえば料理中にうっかり包丁で指を切って出血したらとっさに指をなめる、これは、唾液中に傷を治す力があることを、本能的に知っているからなのです。
このように唾液には様々な効果があり生きていく上で必要不可欠なものばかりです。最近、口が乾く、食べ物が飲み込みづらい、味覚が変わった、虫歯や歯周病になりやすいなどの症状がある方はひょっとしたらドライマウスが原因かも知れません。思い当たることがあれば当院までお気軽にご相談ください。