口腔癌についてもっと知ろう!第4弾 口の中に見られる前癌病変って?
2021年11月05日
執筆者:日本抗加齢医学会専門医 上村英之
本日は口の中に見られる前癌病変について解説いたします。前癌病変とは、ある病態、病変自体、癌ではないが、癌に移行する確率が高いとされている病変の事で癌の前段階であろうという考えから前癌状態とよばれています。口の中に見られるがん化する可能性のある前癌病変には白板症と紅板症があり、それぞれについてどのような特徴があるのかを見てみましょう。
①白板症
白板症とはWHOの定義によると臨床的ならびに組織学的に他の疾患に分類されない白斑または白板とされており
口腔粘膜全般にできる白い病変で、こすっても剥離(はくり)しません。症状は必ずしも痛みを伴うわけではありませんがびらんを伴うものでは当たると痛かったり、しみたりします。
原因は喫煙や飲酒、義歯や虫歯による慢性的刺激、ビタミンAやBの不足、さらに加齢や体質なども関係するといわれています。
臨床的特徴としては女性よりも男性に多く、男性は女性の約2倍前後との報告が多い様です。
好発年齢は50、60歳代とされていますが幅広い年齢層に分布しています。
好発部位は日本では下顎歯肉が28.5%と多く、ついで舌25.0%、頬粘膜24.3%、上顎、口底、硬口蓋、口唇の順です。治療法としては外科的処置があげられます。
② 紅板症
紅板症はWHOの診断基準によれば「臨床的にも病理組織学的にも他の疾患に分類されない紅斑」とされています。
典型的な紅板症は鮮紅色の紅斑で、組織学的には種々の程度の上皮性異形成から上皮内癌までの所見を示すもので悪性化する確率は白板症よりも高いので注意が必要です。肉眼的所見については境界明瞭な鮮紅色の紅斑で表面は平滑なものが多いですが、中には一部肉芽状や潰瘍を伴うこともあります。
疼痛については、初期症状としてほとんどの症例に刺激痛があります。
臨床的特徴としては性差について男女差を認めていません。
好発部位は口腔底、ついで臼後部に好発するとされていますが、他の報告では舌に多く(53%)、ついで軟口蓋、口底、歯肉の順で報告により差異があります。
好発年齢は50~70歳代に多いとされていますが、一般的に50歳代以上が全体の80%を占めています。
予後(悪性化および転帰)は紅板症の50%前後が悪性化すると言われています。
治療法は外科的に切除するのが望ましいとされています。
放射線療法や化学療法も有効なことが多いですが、治療後の経過観察には注意を要します。
以上が現在、癌ではないが癌に移行する可能性がある病変です。痛みを伴う場合もありますが無症状で進行することも多くあるため1年に1回は口腔癌検診を受けることをおすすめします。